後輩の松村(仮名)
後輩に松村(仮名)という27の男がいる。
彼は月に1~2日ズル休みをする。
ズルという確証はないが、おそらくズルだ。なんとなく、わかる。私には、わかる。そもそも真っ当な人は、毎月一回、腹痛で仕事を休まない。
◇◇◇
松村は休む日の早朝、とても忙しい時間帯に電話をしてくる。
「朝からお腹痛くて…」
「で」
「休みます」
(またか)
「…………」
「…………」
「…………」
「いい加減、病院行けよ」
「…………」
「熱は?」
「7…℃……」
「7℃あんの」
「いえ……それは……」
「…………」
「…………」
彼は自分から電話を切らない。
「明日これそう?」
「あとでまた電話します」
「課長(所属長)に直接言ってもらえる?」
「はい」
◇◇◇
課長はあまり怒らないが、多くのスタッフは怒り心頭である。自分みたいに松村のズルと周囲の反応を楽しんでいる人間もいるが、少数派だ。
みんなは松村がズルをすると、怒り、せっせと悪口を言いあう。だが時間の経過とともに、怒りは反感に変わり、松村の話題に飽きる。松村はまたズル休みをする。みんなはまたイライラして陰口を…
毎回、その繰り返し
今までそれでやってきたし、たぶん、これからもそれでやっていくのだ。松村という理解を超えた不毛な存在とわかりあえる日は、きっとやってこないだろうし、積極的に関わろうとも思わないが、興味深い奴ではある。奴はもしかしたら、レジスタンスなのかもしれない。大人社会が当然のような顔をして個人に押しつける価値観をシカトして自由を求める一人反乱軍だ。松村の未来がちょっと気になる。